【黒部】中止の決断:SEASON-3


2018年10月24日水曜日。黒部の下ノ廊下を目指して黒部ダムまで行きました。

そして翌日、東京に帰ってきました。あぁ無念。

徳川家康は三方ヶ原の戦いで敗走した後、自戒のために肖像画を描かせたという伝説があります。今回、中止を判断した経緯を記し、自戒とします。

みんな、俺を踏み台にして先へ進んでくれ!


中止判断のカルテ

老化とは年々加速を増して進むもの。

頭では分かっていたつもりだった。去年、一昨年と登山中になかった身体的トラブルが今年は2度目。3度目もすぐに起こるかもしれない。

そんなとき、致命的なエラー(別名:この世からのゲームオーバー)にならないよう、慢心への自戒として残しておこう。

この日の予定

下ノ廊下。

黒部ダム建設の歩荷たちが重い資材を運ぶため、黒部ダム(平ノ小屋)から下流の仙人谷ダムまで無理やり通した道を旧日電歩道、そして仙人谷ダムから下流、黒部峡谷鉄道(トロッコ電車)の終点欅平までを水平歩道といい、合わせて全長約30kmの峡谷を下ノ廊下という。

コースタイムは12時間40分。通常、阿曽原温泉小屋を利用した1泊2日で歩く。断崖絶壁の上を人がすれ違うのも困難なほどの細い道。岩盤から湧き出て天然シャワーとなった滝を横切る道。漆黒の闇に包まれ、水がひたひたと溜まっている素掘りのトンネル。いつ、どこからやって来るか分からないトロッコにトンネル内で轢かれる可能性に恐怖するトンネルなど、多くの困難が待ち構えた道だ。

一方、黒部川の流れに対して途中、東は鹿島槍から、そして西から剱岳からの沢がちょうど十文字に交わる十字峡を始め、大地を深くえぐり削った峡谷は、その人の手を入れる困難さから日本に残った数少ない自然の景観美を誇る。

一般者の通行が可能となるのは1年の間のたった1カ月程度。しかし夏の雪解けの状況により、開通しない年も決して少なくはない。

黒部ダム建設時に誰からともなく言葉となった「黒部に怪我なし」とは、ミスは怪我ではなく即、死を意味する言葉として伝わり、この言葉は現在、下ノ廊下を歩く登山者に向けられている。

尚、堤高186mは日本一のダムであり、またダムの所在地である富山県内で最も高い建造物となっている。

やまパレ書房「びっくりどっきり!下ノ廊下」より

トロリーバス黒部ダム駅の一般観光客出口とは別にある登山口から黒部川沿いに阿曽原温泉まで歩き、翌日、欅平まで歩く予定。そのため前日、黒部ダムの堤頂を歩き、黒部湖畔にあるロッジくろよんに宿泊。

5時半、ロッジくろよんを出発。10時35分には十字峡。阿曽原温泉には13時40分着予定。

朝、ロッジくろよんの玄関を出て、外のベンチで支度をする。ベンチは朝露が凍り付いていたが、かまわずに座って靴紐をきつく締める。

ギックリ!

腰抜かしてしまいました。

迷い・・・

前回のトラブルを起こした那須岳のときは肉離れ。明らかに歩けなかった。

しかし今回はギックリ腰。もう何回目かも分からないほど経験してきたギックリ腰。

俺はギックリ腰のベテランだ。

もし、多少無理してでも歩けるならば・・・、歩くスピードが変わらないならば・・・。

ちょっと空身で歩いてみる・・・。痛い。

ちょっと腰をひねってみる・・・。痛気持ちいい。

「ザックのヒップベルトをギュウギュウに締め上げればコルセット代わりになるかもしれない!」そう思ってザックを担ぐために腰を屈めると・・・。うぎゃああああ。

さんざん迷った末、一旦様子見のために部屋に戻るとする。

同室だった男性登山者に「あれ? 先に行ったんじゃないの?」と声を掛けられる。「いや、ちょっと、腰が・・・」としか言えない。

部屋で枕を腰に当てて仰向けになってストレッチ。腰、太もも、ふくらはぎ、小指の先まで電流が走る。

つい出てしまう咳。体がよじれるほど痛い・・・。

これはあれだ・・・。ダメな奴だ。

死亡フラグの一例

今日の相手は下ノ廊下。つい数日前も、そして先週も、何かの拍子に足を踏み外して重大な事故が発生している下ノ廊下だ。

「ちょっと無理すれば大丈夫!」

なんて思いっきり死亡フラグじゃないか。

 

10月中に下ノ廊下を歩くため、仕事をぎゅうぎゅう前に詰めて時間を作った。

月曜日。仕事的にはなんとか今週中に行けそうな気配がしてきた。天候は金曜日まで良さそうだ。

火曜日。お昼を過ぎて確信。明日から下ノ廊下に行ける! 水曜日にロッジくろよんまで行って、木金で下ノ廊下だ! テント泊なら予約もいらない。急な出発も安心だ!

水曜日。電車に乗り、バスに乗り、14時過ぎに黒部ダム。観光放水は終わっているはずなのに、目の前に放水が見える! 水煙が空高く舞う。

黒部湖の湖面が光る。

西日に照らされた山肌が輝く。

翌日はいよいよ下ノ廊下だ!

 

それでも僕は、登山続行は危険だと判断し中止を決断しました。

脳裏に押し寄せる敗北感。圧倒的敗北感。

ハインリッヒの法則

労働災害を語るとき、ハインリッヒの法則と言うものがあります。

ハインリッヒの法則

ハインリッヒの法則(ハインリッヒのほうそく、Heinrich’s law)は、労働災害における経験則の一つである。1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するというもの。「ハインリッヒの災害トライアングル定理」または「傷害四角錐」とも呼ばれる。(冒頭抜粋)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』:ハインリッヒの法則

今回、想定される重大な事故とは死亡。そして軽微なミス。ありました。

  1. テントは持ったけれどシュラフを忘れた
  2. 行動食袋(おやつ袋)が見当たらなかった
  3. 黒部ダム到着時間が14時半を過ぎ、お昼ご飯を食べられなかった。(朝、パンを一齧り)
  4. 黒部ダムの記念撮影係りの人に撮ってもらった写真のリアクションがつまらないものだった
  5. ロッジくろよんの風呂で右足人差し指をぶつけて擦りむいた。

シュラフ忘れは新幹線で気づきました。「今回は妙にザックに余裕があったなぁ。パッキング上手になったのかなぁ・・・あ! シュラフ! リビングの片隅で保存袋の中でモコモコさせてたまんま。コンプレッションバックでギュウギュウ絞った記憶がない!」

新幹線のデッキで、最初に阿曽原温泉小屋に電話して翌日の小屋泊まりをお願い。「大丈夫ですけれど、多分結構混みますよ」。良いです良いです。泊まれれば良いです。ついでに食事もお願いします。次にロッジくろよんに電話。「相部屋ですよ。良いんですか? え? 素泊まり? 素泊まりで良いんですね?」。テン泊のつもりで用意した食料、少しでも消費したかったんです。すみません。外で一人、サタケのアルファ米とパスタで食事を取りながら夕食の支度をのぞき見してみましたが、この日のロッジくろよんの夕食はエビフライでした。食事つきにすれば良かったと思いました。

行動食袋。スタッフサックの中におやつを入れていたものがあったはずなのに無い。スタッフサック自体がない。結局行きの東京駅のNEWDAYSで、チョコとハイカロリーのビスケだけを買いましたが、スタッフサックはどこへ行ったんだろう・・・。

黒部ダムに着いたら、ダムカレーを食べたかった。翌日の阿曽原温泉小屋の夕食がカレーかもしれないけれど、それでも食べたかった。トロリーバスを降りてまっすぐレストハウスに行けば良かったのかもしれない。しかし私は階段を上って展望台に行ってしまった。気分が高まっているので空腹感はないけれど、明日の行動を考えればカロリー摂取は必要だったはずだ。

展望台では記念撮影係の人がシャッターを押してくれます。押してくれる前に、撮影係の人のカメラで撮影して、販売もしています。「絶対買わないんだけどなぁ」と思いつつ、それでもオッケーオーラで撮影してくれたので、ちょっと申し訳なく感じてしまい、なんかつまらないポーズになってしまった。

ロッジくろよんはお風呂に入れます。温泉ではない普通のお風呂。浴槽が大小2つ。そのうち大はお湯がなく、小さい浴槽だけお湯が張ってあります。むちゃくちゃ熱かった。でもほかの人たちが食事の時間に入ったので誰もいないのでのんびり入ることができました。気分いい。さあ出よう。そんなとき、扉の桟に足の指をぶつけて血が出ました。靴下を履くと、ヒリヒリしました。

 

もしもシュラフを忘れず、テントで「寒い寒い」と言いながら寝ていたら。

もしも行動食袋を持参して、「ナッツうめぇうめぇ」とテントの中で食べていたら。

もしもダムカレーを食べて、「ふ~、まんぷくまんぷく」と食料への危機感が皆無だったら。

もしも記念撮影で、「一人だけれどはっちゃけちゃうよ~」とノリノリだったら。

もしもお風呂場で何事もなく、「靴下ぬっくぬく~」と思えていたら。

 

何か一つの掛け違い。しかしそれが人生。定められた運命。「もしも・・・」を言うのであれば、「もしもギックリを強行して下ノ廊下へ行っていたら、大勢の人に迷惑をかけ、家族を悲しませていたかもしれない」と思いたい。中止の決断、アリのはずだ。

 

無理やり通して得た楽しさよりも、準備万端安全安心な楽しさを。それが少々危険を伴う登山の楽しみと私は考えます。

「歩けるんなら行けば良いじゃない」という反対の意見。それを聞ける今があることの方が大事です。

 

そんなわけで後日、「黒部ダム往復」のブログもアップ予定。

誰もいない、観光客はおろか、働いている人も誰もいない黒部ダムの堤頂。ラストイヤーのトロリーバス。それだけでも良いじゃない。

【黒部】中止の判断:SEASON-3 おわり

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【黒部】中止の決断:SEASON-3” への2件のフィードバック

  1. 今回も楽しく?読ませて頂きました。

    数年前に黒部から欅平まで歩きましたが
    阿曽原小屋周辺や欅平への下りは意外と
    タフなので今回の選択は正しいと思います。

    来年の天気が良い時に挑戦して下さい。

    1. ブックさん
      いつも読んでくれてありがとうございます。
      帰る途中、「今ごろ十字峡だったかなぁ」とか「本当ならトロッコ乗ってるんだけどなぁ」と未練たらたらでした。
      録画していたアタック25を見ていたら、最後の問題「ある温泉地をお答えください」では正解の「宇奈月温泉」で悶絶ですよ。
      来年、改めて下ノ廊下を歩こうと思います。
      今年無理して行くよりも良い山旅になるはずです。

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