初登【富士山】SEASON-O:初心者だから素直に吉田ルート


富士山頂には僕の知らなかった世界がありました。想像を遥かに超える風景がありました。

濃い色の空。透明な空気。無音を聞く感覚。

もう一度あの感覚を味わいたい!

これが僕の登山のはじまりでした。

SEASON-ZEROは、翌年から始まる登山のプロローグ。知識も装備も何もかもゼロからはじめ、山登りが好きだか何だか分かっていない初年度の話。

1995年は2回の山行。人生初の登山、富士山から僕の山旅は始まります。

 


旅のしおり

富士登山データ 

日程

2015年8月21日金曜日~22日土曜日 

登山口までの行程

自宅→(車)→富士北麓駐車場→(シャトルバス)→富士スバルライン五合目 

登山行程

往復吉田ルート。時間は行き当たりばったり。

初日は7合目の東洋館で宿泊。2日目に山頂を目指し、その途中でご来光を見る。吉田口の山頂についたら時計回りでお鉢めぐり。富士山最高地点の剣ヶ峰を目指す。1周したら下山。 

歩数

8月21日:8809歩

8月22日:2万3471歩

合計:3万2280歩

 出発前日に山小屋を予約しました。ルートは初心者なので迷わず吉田ルート。4つあるルートの中で混雑度MAXですが、人が多いだけに単独で初登山の僕には心強いです。また、悪名高き大行列は、初心者の僕にとって、行列でノロノロ登るくらいが丁度良いと考えました。

登山の目的

1.  とりあえず日本一の富士山に登る

2. 富士山での写真撮影(できれば星空も)

3. 山頂の神社で御朱印をもらう

 「山登りの楽しみを感じる」という目的はありませんでした。とにかく「日本人として一度は富士山へ。一回登ればそれで満足」だと思っていました。

 そのついでに、写真撮影があります。それまでも一人旅に行っては写真を撮っていました。星空について、富士山は関東から近い中で特に綺麗ということなので、三脚も持参しました。

 一人旅をしていたとき、御朱印帳を持参していたので、その流れで御朱印をもらいます。

ウェアと装備

 特別用意したものは、モンベルのレインウェアトレッキングパンツくらいです。それ以外は家にあるものだけ揃えました。

身に付けたもの

トレッキングパンツ、Tシャツ(普通の)、リュックサック(普段使い用)、携帯電話、靴下(普通の)、カメラ(D7000を首から)、フライターグのメッセンジャーバック(中にお財布とiPad)、帽子(普段使いのハンチング)、金剛杖(駐車場で購入)、軍手

リュックサックの中身

レインウェア、長袖シャツ、フリース、カメラの三脚、軍手、ヘッドライト、タオル、替えの下着と靴下、ファーストエイド(正露丸、ロキソニン、湿布、テーピング(伸縮しないタイプ)、バンドエイド)、ビニール袋、ポカリ(500ml×2本)、アーモンドチョコレート

富士山に登るまで

 構想5年くらい。30歳後半になった頃、なんとなく富士山を意識し始めました。

日本人なら一度は日本一の富士山頂へ。

 しかし富士山の初心者シーズンは、大体7月から8月末。その期間は家族での旅行やら、お盆休み対応スケジュールの仕事やらで、優先順位の低い富士山はいつも後回し。やっと優先順位が繰り上がり、富士登山について調べてみると、絶対必要アイテムのレインウェアの高額さに驚き(2~3000円かと思ってた)、それ以降しばらくは見なかったことになっていました。

2014年、御嶽山が噴火します。

 もし富士山が噴火したら、一生登ることが無いかもしれない。そう感じると、富士登山の優先度が昇格! 家にあるもので足りないものは唯一レインウェアだけ(このときはそう思っていました)。覚悟を決めて購入します。

 しかしやはり、仕事やら家族を理由に中々具体的に予定は進みません。何しろ登山が楽しいとは思えませんでしたから。8月になり、お盆を超え、気が付くと8月20日。浅間大社奥宮が開いている8月の土日は後2回しかありません。金曜日にやる予定の仕事は木曜日にやり、翌日金曜から土曜日にかけての富士登山を決定しました。

 


1日目 2015/08/21

登山口まで

 10時頃に自宅を出発。出社時間より遅いです。途中、談合坂SAでポカリとお茶アーモンドチョコを購入しました。なんか山登りにはアーモンドチョコが似合う、みたいな・・・・・・。

 

河口湖ICで降りると、看板を頼りに山梨県立富士北麓駐車場へ向かいます。

  駐車場は混雑していなく、係りのおじさんがテキパキと駐車スペースに誘導。余裕ある場所を案内してくれました。1400台収容の敷地は伊達じゃない。ズボンと靴を履き替え、脱いだものは温泉セットと一緒に車の中へ放り込みます。 

 

 

12:09

 バスはすぐにやってきました。バスのチケット売り場には売店もあったので、ついでに鈴の付いた木の棒も買いました。金剛杖というらしいです。これで山小屋ごとに焼き印を入れてもらうんだとか。縁起物だし・・・・・・ということで購入しましたが、こいつが最後は頼りになるとは、まだ知る由もありません。

 

 車窓の富士山はどんどん大きく見えてきます。標高といっしょに気分も高まります。富士スバルラインは自転車で登っている人も大勢いました。下りはきもちいだろうな。登りは勘弁!

13:06 

 富士スバルライン五合目に到着。登山の人。五合目までの観光の人。自転車の人。たくさんの人がいます。僕は登山の人。観光の人とは違い「浮かれてられないぜ。山は舐めると危ねぇからな」なんて思えるわけがない。観光の人と同様、真っ先にお土産屋を物色し、お昼ご飯を食べます。駐車場で買った木の棒ですが、五合目はちょっとだけ高いけれど、ちょっとだけ種類が多かった。

13:15 

レストランは団体の外国人観光ですごい人でしたが、待つことなく座れるほど広い。窓側に座ると、どこかの吹奏楽部がなんかやってます。もうお祭り気分です。 

テレビでおなじみ、噴火カレーです。味は普通です。

 ところで五合目の広場で準備をしていると、富士山保全協力金のお願いの声がひっきりなしにかかります。最初に声をかけられたとき、僕はリュックサックの中を確認している最中でした。別に払わないつもりでもなかったので、ナチュラルに「後で払いますね」と言うと、「よろしくお願いします」と気持ちよく去って行きます。

 これ、後から報道で見ましたが、払わない人も多いらしく、その理由は「どこで支払えばいいのかわからなかった」ってのが結構な割合でいたような・・・・・・。

どこから登ったんだ!?

 出発しようとゲートへ向かう途中、大きな、目立つブースがあったので、1000円を払いました。バッチをもらってリックサックに付けます。その後、しばらく協力金お願いの人はいましたが、リックのバッチを見ると「お気をつけて」と声をかけてくれました。

本当に分からない人がいるのか!?

ケチりたかったって素直に言えばいいのに。

 

富士スバルライン五合目(吉田ルート)出発

13:54 2305m

 すでにガスが出ています。景色が見えないので残念な気分で出発しました。同じような時間に出発する人も結構います。安心して後を付いていきますが、いつまでも同じペースなので、微妙に距離を保ちます。ちょっと気まずいです。

 6合目まで馬がいました。乗っているのは外国人の観光客が多いようですね。外国人は本当にたくさんいます。ガチ登山者も、6合目までハイキングも、バスで5合目までの人も。

 この後、6合目を過ぎるまで写真は撮っていません。だって6合目まではほぼ水平移動。途中ですごい根っこの木を見つけましたが、「まぁ帰りでも撮れるだろう。撮るなら天気の良いときに」なんて思ったり。テレビで見たような行列などなく、思い描いていた様子と違うことに戸惑います。ただ、ガスはところどころ晴れ、いきなり標高2300mの景色が現れることもありました。「こんな簡単に山登りっぽい風景見えるんだな」と感じながら、また踵あたりにムムム・・・・・・を感じつつ、同時間に出発した赤の他人に置いて行かれないよう歩き続けます。決して山ガールの真後ろをストーキングしたわけじゃありません。

 そしてまたガスがかかり、小雨が降りだしました。

 小1時間ほどで6合目付近のトイレがある広場に出ました。ここでも協力金お願いの人がいます。ドコモのジャンパー来た人がバンドエイドを配っています。同時刻出発組みの中には山ガールのほか、ツアーご一行もいました。そのガイドが「ここでレインウェアを着ましょう」とか言っています。

良いこと聞いた! このタイミングで着れば良いのか!

 レインウェアを着ました。ついでにもらったばかりのバンドエイドを踵に貼ろうと靴下を脱ぎました。

すでに手遅れでした。

 両足水ぶくれ。破れるのは時間の問題でしょう。バンドエイドの上からテーピングしました。さらに靴下の上からもテーピングで踵をぐるぐる巻き。動いて擦れるのが痛いんです。

 登山開始1時間で、両足靴擦れ&足首固定。しかしガッチガチに固めれば、痛みは和らぐことを知りました。

 

 気分を変え、登山を続けます。

15:15 

15:16 

 上を見れば青空。下を見れば・・・・・・っていうかもうすでに自分も雲の中。山の天気は目まぐるしく変わると聞いていました。本当に数秒で視界が変わります

 外国人もたくさん登っています。やたらとお尻がプリプリしています。タイツのままでです。きっと欧米スタイルなんでしょう。僕には真似できません。

 子どもたちも元気いっぱいで登っています。走ったと思ったら止まったり、戻ってきたり。

 ペースは一定に保つって聞いた記憶があるけれど、子どもたちはガン無視。お父さんらしき人が「ゆっくり行け~。ペース保て~」とか言っています。さすが山を分かってらっしゃる。

 しかし子供たちはずっと走ったり止まったり、セオリーをある意味ガン無視したペースを保ち、お父さんのペースは保てずに遅くなっていました。 

上をみると山小屋がたくさん。道は大勢の登山者でカラフルに。まるで商店街のようです。  

15:44 2720m

 7合目2件目の山小屋、日の出館です。1件目の山小屋で木の棒に焼印してもらおうと思って扉を開けたら、「泊まる人以外入らないで!」と怒られました。心にダメージを負ったので写真は撮っていません。間違って入った土間から小屋の中を見ると、泊まる人と思われる外国人カップルが体育座りでこちらを見ていました。この光景は記憶のシャッターに留めました。トラウマと一緒に。 

 

15:45

 下を見ると雲海。30分で雲の中を脱出。あの中にいたら、そりゃガスで景色なんか見れないし、雨だって降る。6合目あたりで降っていた小雨は7合目の時点で既に止んでいます。でも6合目は相変わらず降っていたんだろう。一々感動していました。 

15:52 2740m 

トモエ館。日の出館より20mしか上がっていません。10分も経ってない。 

15:56 次の山小屋まで行列。渋滞です。進まないんで退屈なのかと思いきや、

 これこれ! これがテレビで見ていた富士登山だよ!

 そう言えば、みんなリュックサックカバーをかけているのが羨ましくなりジロジロ観察しました。モンベルは知っていましたが、オスプレーとかいうブランドはまだこの時知りません。なんだか沖縄ならヤバいことになりそうなブランド名だなっと思っていました。他にドイターが多かったかな。

16:10 2790m

 鎌岩館。渋滞は続きますが、ここで休憩をしている人が多かった気がします。ヤバそうな人もベンチで休んでいます。僕もハァハァ言いながら登っていますが、渋滞のおかげでノロノロ歩いてきたので気分的には平気でした。ここで立ち止まりながらアーモンドチョコ。糖分で疲労回復っていうことを、生まれて初めて実感しました。 

16:27 

 富士一館(2800m)を超えると、鳥居が近づいてきました。基本的に同じ景色、同じ行列、同じ登山者。そんな中、こんな朱色の鳥居は目標としてアクセントがあっていい。頑張れる。しかも、山小屋に鳥居ナンチャラって名前があった記憶があるので、非常に分かりやすい。でも、鳥居は中々近づかない。渋滞だから。だが、そのゆっくりが良い。 

 

16:44 2900m

 やっと鳥居荘に到着。見上げれば今日の目的地、東洋館が見えます。もうすでに2本あったペットボトルの飲み物は残りわずかですが、東洋館で買おうとスルー。5合目、6合目、7合目とペットボトルの値段は上がっていった気がするので、7合目にある東洋館も7合目料金(400円)のはず! この頃はそう思っていました

 登山者は少しずつ、途中の山小屋に吸い込まれていきます。富士スバルライン五合目から同じペースだった山ガールも、ここらへんで見かけなくなりました。 

 

17:00 3000m 

 おそらく今日のお宿、東洋館に到着したとき。なんと山小屋の写真がない! ってことは撮ってない! 何たる醜態! 体力的には予想よりは楽勝。まだ上まで行けたなぁ。

はじめてのヤマゴヤ

 山小屋にチェックインすると、袋を渡され靴を入れ、寝床に案内されます。寝床には寝袋が縦半分に折りたたまれ、ずらーっと・・・・・・。一人分のスペースは、寝袋縦半分だけか!? 

 着替えようかとも思いましたが、ここで着替えていいものか分からず、結局やめました。奥には父子らしき2人組が既に寝ています。早寝だなぁ、おい。

 

17:23 

外に出ました。明日登る道を見上げます。多分、6合目で僕に1つ知識を与えてくれたツアーご一行が見えます。どこまで上がるんだろう。上に見える山小屋は8合目太子館だな。近い近い。この頃はそう思っていました(2回目)

 

17:56 夕食のハンバーグ定食。おいしかったです。富士山の山小屋ってカレーが基本だと思っていました。

 向かいに座ったのは、お父さんと中学生の息子さんとそのお友達。富士山2回目で、2年前の初回は8合目で子どもの気分が悪くなって下山したということでした。僕は「山登り、俺、初めてなんすよー。えへへへ」としか言えません。 

 

夕食後、何して時間をつぶせば良いのか分からずに外へ出ました。暗くなってきましたが、星はまだ見えません。月が綺麗ですね(愛しているとは言っていない)。外でウロウロしていたら、明日のお弁当をもらうのを忘れていて、山小屋のお兄さんが私を探して持ってきてくれました。

 

雲がモクモクとせり出してきました。寒いです。レインウェアも、その下にはフリースを着ても寒すぎです。

 この後山小屋に入り、生ビールとポテトチップを買い、一人でダラダラしていました。周りでは見知らぬ人同士が山の話で盛り上がっています。僕にはとても入っていけません。「山登り、俺、初めてなんすよー。えへへへ」としか言えませんから(2回目)。

 18時を過ぎても続々と泊まる人が入ってきます。

 

「寝る」という拷問

 初めての山小屋。やることがないので20時頃に寝床へ行って横になろうと思いました。

狭い。肩が入らない。

 両サイドの人はすでに横になっていましたが、片側の人が「もうちょっと寄りましょう」と言ってスペースを作ってくれました。

それでも狭い。

 肩が触れ合います。寝返りを打つと隣の人に吐息をかけてしまいます。数年前、一人でお寺の宿坊で修行体験をしたことがありましたが、そのときでも一畳はありました。それより断トツに狭い。ずっと上を向いているしかありません。眠れません。いろんな思いが頭を駆け巡ります。  

寝返りできない地獄。ライト感覚な拷問・・・・・・、いやシベリアあたりであったはずだ。

せめて顔を横に向けたい。でもヘタすれば隣のおっさんにキスしちゃう。それだけはイヤー!

すでに寝ていた2人組。「早寝だなぁ、おい」って思ってたけれど、それ正解。俺間違い。

あー、さっさと寝ればよかった。なんなんだこれ。

 頭の中をいろんな思いがぐるぐると駆け巡ります。本気で拷問に使えそうだと考えます。奴隷船とどっちが辛いのか想像します。そんなことを考え、そろそろ数時間経ったかと思い時計を見ると、10分くらいしか経ってません。

 そうこうするうち、山小屋到着時点で寝ていた早寝2人組が出発しました。時間は0時くらい。「早起きだなぁ、おい」。私も追随しようかと思いましたが、寒さに耐えられそうにないので止めておきます。奥の二人がいなくなったのに、隣の人は起きているのに、広い方には移動しません。でも拳一個分、じんわり広くなりました。もっと移動すればいいのに。

 


2日目 2015/08/22

いつ出発すべきか?

 ちょっと寝ては起き、時間を確認すれば1時間しか経ってない。そんな深夜を過ごして3時過ぎ、少しずつザワ・・・ザワ・・・っとし始めたので、僕も起きて外のトイレに。

星空に驚きました。

 40年ほどのちっぽけな人生において、今までの1位を10ゲーム差でぶっちぎる勢いです。

 だがしかし! 風が強い。強すぎる。体も飛ばされそう。三脚使ってもカメラが飛ばされる。折角担いできた三脚ですが、結局は一度たりとも使用することはありませんでした。

初の死兆星撮影に成功した奥飛騨での北斗七星。

 星空を堪能。しかし30秒ほどで撤退。寒いんですもん。山小屋の中ではチラホラ出発の準備をしている人がいます。僕も出発しようかな~、でも外は風すんごく強いし、頭も軽く痛い。

 とりあえず、荷物を広間に移動します。寝るときに脱いでいたレインウェアは隣の隣の人の足元まで移動していました。ちゃんと初心者なんだから初心者らしく名前を書いておけば良かった。

 広間ではまず、軽く頭痛なのでロキソニンを摂取。そして新たにペットボトル2本を買い(1本500円の8合目価格!)、靴ずれのテーピングを直したり、ヘッドライトを出してみたり・・・・・・。

 出発のキッカケが分からなかったんです。本当に風が強くて、今出たら山小屋の人に「山を舐めるな!ばか!」って怒られたりしないかな~とか、出発前に何か儀式的なことするのかな~とか・・・・・・。

 全神経を(周りの登山者に)集中して、今が出発すべきタイミングなのか見極めます。

 同じ宿だったツアーご一行のガイドさんが言いました。

「今、頭痛い人いると思いますが(お! 俺だ!)多分軽い高山病で、動くうちに治ります(なるほどなるほど)。今、風強いんですが、多分すぐには止みません(なに! どうすんだ!?)。なので、気をつけながら出発します(今か!)。後10分で出発するので、今のうちにトイレに行っておいて下さい」

俺の野生の勘が、出発は今だと言っている!

 ここから8合目までは多分忘れられません。登山にハマったキッカケの一つです。

 

覆い尽くす暗闇! 迫りくる風!

4:00前 

 前日に見ていた道は壁にしか見えません。視界は星明かりとヘッドライトで照らされた岩、岩&岩。振り向くと単独で登って来る人のヘッドライトがかなり下で動いています。自分を鼓舞するため、「うんとこしょ! どっこいしょ!」とナチュラルに声を出します。風のゴォォォォという音と、周りに誰もいないので平気です。

 視界はヘッドライトで照らした足元だけなので、真っすぐ歩いているつもりでも端っこに行ってしまいます。プールで背泳ぎをしているとヤリガチなアレです。端に行くと鎖のガードレール。支柱が抜けると危ないので持ってはダメです。すみません。持ちました。怖いんだもん。コースの真ん中へ戻ろうと進むと、今度は逆の端にぶつかります。

チョロQかよ!

 そう思ったのは2回ほど端にぶつかるまで。自分でツッコミを入れる余裕がどんどんなくなります。自分を鼓舞するための掛け声は、恐怖心の絶叫に変わっています。背を伸ばしたい。でも風で体ごと持っていかれそうだ。ときに強風は、私の膝を屈服させます。足元の岩を掴ませます。片手で持っている木の棒が邪魔です。「うおおおおぉぉぉ! 怖えぇぇぇぇぇ!」。

 気まぐれな風は、急に止みます。すると脳内会議が即座に開催されます。

俺、ビギナーだし途中敗退しても良いんじゃないか? 

いや、もしこれが仕事だったら絶対登りきれるだろうな。

でもこれは勝手に来た遊びだしなぁ。

じゃあなぜ富士山に登ろうと思ったんだっけ?

あー、頭がキンキンに冷えてやがる。痛ぇ。

今思えば、大したことなかったんじゃないかな。結局30分程度だったし。でも体感では本気で1時間。

4:29 3100m 

 太子館。真っ暗闇を登り、ここまできたとき、山小屋の明かりが嬉しかった。本当に嬉しかった。 ポケットに入れていた携帯で写真を撮りました。一眼レフは山小屋でノロノロしていたときリュックにしまいました。

 雄叫びを上げながら登った7合目東洋館と8合目太子館とは打って変わり、そのあとは歩きやすかった。20分ほど歩き、蓬莱館へ50mほど高度を上げます。  

 

4:48

 明るくなってきました。そろそろご来光。蓬莱館で見ようかと思いましたが、後ろからツアーご一行がやってきます。居心地が悪いのでもうちょい先へ進みました。カメラはリュックから出しました。

5:02

 こんな石碑があるところに来ました。何しろ寒い。凍えながら座ってご来光を見ます。しかし撮影のとき、もはや三脚を使うという発想はナシ。手持ちで頑張って撮影の練習しまくりました。

 

陽は世につれ世は陽につれ

いつもわたしは見ているけれど

あなたは決して見てくれない

だけど今だけ見つめてくれる

あなたの視線を感じます

わたしは近寄り難い女(人)

だけど今だけあなたの女(人)

 

 それではご登場頂きましょう。ご来光さんです。

 

5:08

 朝陽に照らされ赤く光る吊るし雲。下は雲海。この景色は凄かった。しかし寒い。早く行動して体を温めたい。そう思って腰を上げて山頂方面を見上げたときでした。

 足元が、地面が、目の前の山肌が、みるみる赤く染まりはじめました。これは写真(私の技術)では表現できないと判断した気もするし、そもそも撮影することを忘れた気もします。歩くのも忘れました。赤く染まる景色を見続けます。向こうから赤いスクリーンがみるみると迫ってきます。気が付くと「おぉぉぉぉぉぉぉ」と声をあげました。恐怖の雄叫びを上げてから1時間もしないうちに、今度は感動の雄叫びです。

 自分が朝陽の赤ゾーンに入ると温かさを感じました。気のせいかもしれないけれど、そう思ったんです。こんな体験、今までなかったし、知らなかった。天候に恵まれて本当に良かった。そういえば今回の富士登山。登れれば良いやと思っていたので天気予報は全く見ていなかったな。

携帯でご来光と自撮り。ヘッドライトが山伏みたいなシルエットを醸し出します。

山頂まで淡々と。

5:30 3200m

 白雲荘。山小屋の前が広い! ベンチがある! ここに泊まったら外の景色をずーっと楽しめただろうな。ただし防寒対策は必須。夏休みだろうと、東京は35℃を超えていようと、ダウンはあった方が良い。

6:49 下山ルートではゾロゾロと下る人がいます。数時間後には自分もあそこへ。 

ご来光時の赤みはなくなり、雲海は・・・・・・、海ですね。本当に。

 

7:22 3600m ここは九合目。携帯で撮ったとき、疲労で体がプルプルしていました。前の人もプルプルと写真を撮っていました。山頂まではあと30分らしい。

 

7:34 写真を見てもよく思い出せないのですが、確か9合目を超えてから広いスペースがあり、そこで休憩した辺だと思います。アーモンドチョコは力が沸きます。2本あったペットボトルのうち、すでに1本は空になってます。周りの登山者は、ゴミ袋をリュックサックにつけていました。私のリュックにはつけるところがなく、羨ましかった記憶があります。

 

8:03  鳥居と石垣は随分前から見えていました(30分前の写真にも見えている)。石垣から赤の他人が、「もう山頂だぞー。がんばれー」と誰かに言っています。ここで本当にもうすぐ頂上ってことを実感できました。

 9合あたりから前を歩いていたファミリーが良いペースメーカーになってくれます。ずっとお父さんのお尻を見ながら登っていました。誰もいなければ、もっと遅いペースだったと思います。そんなファミリーと僕を、さらに速いスピードで登っていく単独の山ガール(かわいい)がいて、ダッシュで道を譲りました。僕が遅いから申し訳なかったので。他意はありません。山ガールの手には金剛杖ではなく、ストックを2本持っていました。下からすごい勢いで追いつく様子がカマキリのようでした。 

 

8:06 ペースメーカーだった赤の他人ファミリーは、子どもだけさっさと山頂に行ったようです。ご夫婦は仲が良い。

 

8:08 

 吉田口山頂です。

 完全に息が上がっていました。まずはヨロヨロと石碑に近づきます。さっきの山ガール(かわいい)が「着いた途端で申し訳ないんですが、シャッター押してもらえませんか?」と。大歓迎です。ただ体中がプルプルしていたので、シャッターがブレてないか心配です。その後は代わりに僕も撮ってもらいました。

 

 撮影後、久須志神社で御朱印をもらいます。御朱印帖を取り出すのに、体がプルプルしてるので手こずりました。上の写真はブログを書いたときに携帯で撮りました。

 神社の隣はお土産屋さん街ですが、何件か店仕舞いの準備で閉まっていました。休みたいのですが、7合目最初の山小屋で「泊まる人以外入らないで!」と怒られたトラウマで躊躇します。中から兄ちゃんが「休んでって」と声をかけてくれました。「座って良いんですか?」なんて馬鹿なことを聞きました。

 いくらでも金なら出す。温かい飲み物をくれ! という気持ちで甘酒(缶。400円)を頼みました。椅子の向かいには単独のアメリカ山ガール(かわいい)が、片言で注文し、ラーメンを頼んでいました。なぜか山小屋の兄ちゃんは、おでんと勘違いしそうだったので見守っていましたが、ちゃんと伝わっていたようなので良かったです。

 ゆっくり休んでから金剛杖用オプションである旭日旗を買い、そこに日付のハンコを押してもらい、金剛杖に括りつけました。そういうスタイルがブームのようです。ここらへん、もっと写真を撮っておけば良かったな。

お鉢めぐり

山小屋外のベンチでは、大勢の人が爆睡していました。

8:40 30分ちょい休憩して剣ヶ峰に向かって出発。もう景色は日本じゃない。 

 

ルートをはずれ、噴火口を見に行きました。向こうに見える一番高いところが剣ヶ峰。絶壁にある白いのは万年雪。

 

「アンデス山脈とかに住んでる人は、こんな道を歩いて買い物いくんだろうな」。

もう景色は完全に外国のようです。

8:57 

宝永の噴火口を下に見ます。

富士山の上にいることを実感します。脳内ジュークボックスでは「いっちねんせーっになったーら♪」がエンドレスリピート。

噴火口の周りのピークにはいろんな名前があります。これもその一つ。もちろん名前は忘れました。

「火星って、こんな色の大地なんだろうな」。

ついに景色は地球から飛び出しました。

9:11  噴火口の脇で剣ヶ峰を望む広大な場所。

ここで多くの人が幼稚園時代に半ば強制的に刷り込まれていた野望を果たすときがきました。

100人どころか1人しかいないけれど。でもそれでいい!

富士山の上でおにぎりをぱっくんぱっくんぱっくんと食べたい。

 

おいなりさんだったぁぁぁぁぁ!

それでも良い。おにぎりとおいなりさんは、仲間みたいなもん。竹皮で包まれているし。むしろ、他の山小屋のお弁当にあるらしい、アルファ米のおこわよりも数倍いい!おいなりさん最高!

ここら辺、新田次郎の「芙蓉の人」に出てくる気象観測所があったようです。吹きっさらしっすね。 

食べたら歩く。山小屋が見えます。重機のバックホーが見えます。

富士宮口山頂あたり。吉田口山頂とは違い、吉田口と違ってなんかストイックな感じ。

 

9:30 富士山浅間大社奥宮。目的の一つ、御朱印をもらいます。金剛杖にも押印をもらいます。

 ここの御朱印、見ればわかりますが、朱肉の色があずき色溶岩を混ぜているそうです。久須志神社もそうですが、御朱印の料金は1000円でした。御朱印ゲッターとしては、1000円だろうとなんだろうと躊躇なく払います。次回登ったときは、ダブルサイズの御朱印すらもらおうと思っています。御朱印帖は富士宮浅間大社本宮と同じだったような気がする。

 余談ですが、最近は御朱印が流行っていて、ググると「御朱印の頂き方」とか「お作法」とか、まぁ恭しく紹介されている。そんな人たちからは「御朱印ゲッターとは無礼。スタンプラリー感覚でやるなんてサイテー。料金じゃなく初穂料でしょ!」なんて声が聞こえてきそうです。そんな声には無視するスタイル。 

 

9:40 向こうに見える剣ヶ峰を目指して出発。

 

 この坂、すごい急。今までで一番急だった気がするくらいでした。向こうから降りてくる人の中には、完全にお尻をついて滑り台状態で降りている人もいました。私は風のせいで手すりにつかまりながら、結構怖い思いをして登りました。

10:00  剣ヶ峰の富士山測候所。石段で、ものすごい軽装(てか布を巻いたような装束)の若者(30代前半くらい)が念仏を唱えていました。そういうこと、したくなる気もわかる気がする(いや、わからない) 

 

10:01 3776m 

 ついに日本最高地点、剣ヶ峰に到着。運良く人が少なかったので、石碑だけの撮影ができました。ご来光直後は、ここでの記念撮影が大行列らしい。でもこの時間なら大丈夫!

 

剣ヶ峰からの噴火口。

 

これから歩く方向。

 

歩いてきた方面。

 

 写真を撮っていたら、気が付くと人がむちゃくちゃ増えてました。代わりばんこで赤の他人と写真を撮り合います。僕も石碑の前と、真の日本最高地点で撮ってもらいました。

 石碑の前での記念撮影。偶然に吉田口山頂まで勝手にペースメーカーになってくれたファミリーと撮り合いました。僕から「あー、吉田口山頂まで僕の前にいたご家族ですね。ペースがつくれて助かりました~」と感謝の意を伝えると、「ずーっと同じペースでしたね」とお母さんが言ってくれました。なんかちょっと嬉しい。なんでも毎年家族で来ていて、今回は須走口から出発して9回目登頂らしいです。浅間大社本宮でも見かけたんですが、その時は手ぬぐいのようなものに御朱印を頂いていました。

 真の日本最高地点。日焼け止めを塗りたくっていた山ガールにお願いしたら、「手がベタベタですけれど、よろこんで!」と引き受けてくれました。このノリ、見習いたい! さらにこのお姉さん、撮るときに「バシバシ撮るからたくさんポーズ撮って~」と言います。別にフィルムじゃないし、1枚だけである必要ない! 良いことに気がついた! これ以降、いつでもどこでも誰かに撮影を頼まれたときは、「バシバシ撮りますよー」と言っています。9割は喜ばれ、撮る度にどんどん楽しそうな顔になってくれます(1割は「なんだこいつ馴れ馴れしいシネ」)。

 

三角点は3775.63mで四捨五入の3776m。真の頂上はここから10m程度北で50センチほど高い。四捨五入で3776m

 

10:20  20分ほど剣ヶ峰に滞在し、お鉢巡り再開。念仏兄ちゃんはいなくなっていました。下り坂が続きます。これ、登るのはいやだなぁ。時計回りで良かった。

 

つまらない岩の写真をやたらと撮影していました。

青い空と透明な空気のせいだ。いちいち感動させられる。

 

いつからでしょうか。山頂につく直前から? 8合目手前の暗闇からかもしれない。

気が付いたとき、すでに心の中で絶叫しながら歩いています。あまりにも景色に感動して。

 簡単に絶景とか言いたくないけれど、この写真で「はい。これが絶景の写真ですよ」なんて言わないけれど、山頂を歩いているときはもう・・・・・・、そりゃあもう・・・・・・。

 写真は一瞬。現場ではこの風景がずーっと続くんです。歩くたびに少しずつ角度を変えながら。

 ここを歩いているときは私一人でした。周りに誰もいません。溶岩質の砂利を踏みしめる音が聞こえます。心臓の音が聞こえます。風の音が聞こえます。それがいつしか、無音を聞く感覚になります。「音が聞こえない」じゃない。無音を聞くんです。ピアノ曲と言っていいのか、かの名曲4分33秒ってこういうことでしょうか。

 

前を行く登山者をモデルに使うスタイル。

10:44 この先で、山小屋の夕食時、向かいに座った父子&お友達の3人組とすれ違いました。「おつかれさまで~っす」って。おそらく僕の顔は相当ニタニタしていたと思います。向こうのお父さんもニッコニコです。「やっと子どもたちを頂上に連れて来れました!」って言ってたし。

 

10:54  もうすぐ吉田口。1周が終わります。ここで心の中での絶叫を解放します。

わあああああああ!

 声のすべては空気が吸い込み無になります。これ以上高い山がない場所。冷静に考えれば当然のことなのですが、恥ずかしながら「やまびこにならない」なんて思ったり、「誰かに聞かれたら頭おかしいと思われるかもしれない。それは良いけれど、事故ったと思われたら迷惑かけちゃうな」とか思ったり。でも「ヤッホー」っていう気分じゃないんですよね。力が入らないし。

吉田口より下山。な、長い・・・・・・。

11:08 下山開始です。これがまた景色が良い。

山中湖が見える。昨年まで毎年のように夏は山中湖でウェイクボードをしていましたが、富士山の山頂まで見えることは稀でした。この日なら湖面からも富士山が綺麗に見えたんでしょう。

 

つづら折りに下山します。前を行く登山者をモデルに使うスタイル(2回目)。 

 

11:27 登りルートの近くでは、これから登頂する人たちの姿が遠くに見えました。多分、朝に「いつ頃あそこに立てるんだろうなー」と思っていた場所

下りの辛さ。登山は登るだけではなかった。

これ以降、写真は何一つ撮っていません。辛かったんです。文章だけで記憶をたどります。

 

 両足の踵は下山になると、痛みが増しました。登山中、一度も使用しなかった三脚を収納したリュックが肩に食い込みます。メッセンジャーバッグがさらに肩への負荷をかけてきます。一眼レフのカメラは首を絞めつけます。

 まず、カメラをリュックの中にしまい、首をフリーにしました。でもまだまだ楽にはなりません。

 メッセンジャーバッグのストラップを腰に巻き、バッグをお尻の後ろに持ってきました。すぐに解けて引きずります。なぜこんなアイディアを思いついたのか理解できません。リュックにしまいました。

 結局、肩の負担が増しました。

 踵の痛みが少ないようにトボトボ歩きます。後ろからペースメーカーファミリーが、猛スピード(完全に走ってる)で降りていきます。とても真似はできません。別のファミリーのお父さんが奥さんに向かって、「後ろ向きに歩くと楽だよ」と言いながら後ろ向きで下っています。奥さんは「ほんとだー」とか言ってます。私も真似しました。すぐ、踵が余計に当たることが分かり断念しました。

 江戸屋という、下り唯一の山小屋でペットボトルを買い、1本飲み干しました。手元には残り1本。これが間違い。江戸屋からの下山で2本は欲しかった。ここでペースメーカーファミリーは須走ルートへ。江戸屋の人となんか楽しそうな会話をしていたので、さすが常連なんだと思いました。

 江戸屋を出てからすぐ、吉田口方面と須走口方面との分岐です。そこから30分ほど歩いた後、そばにいた単独のおじいさんが吉田口はこっちで良いんですよねと、恐ろしいことを私に聞いてきました。「こっちです! こっちのはず! こっちじゃなかったら僕の心が折れます」と言うと笑ってくれました。ひょっとしたら私の悲壮感を感じ、ボケてくれたのかもしれません。おかげでちょっとした笑いがオアシスに感じました。

 下りの7合目にはトイレがあります。そこまでつづら折りのカーブは40カ所くらいあったのではないでしょうか。どのカーブを回っても、同じ景色が続きます。同じ景色地獄です。途中、カーブの膨らみのところで具合が悪くなってうずくまっている山ガールと、そのそばで見守る彼氏がいます。いざとなったら彼氏は、彼女をおんぶして下山するのでしょうか。いや、無理だろうなぁ。元気がやっと戻ったとしても、そこからまだ長いのに。喧嘩にならなければ良いのだけれど。

 同じ景色地獄で心の支えになったのは、同じペースで下山する人たちと、木の棒=金剛杖でした。金剛杖には完全に体重を預けて歩きます。心だけでなく体も支えてくれました。すでに痛みは踵だけでなく、両膝にもきています。100mほど後ろを歩く単独の若者からも悲壮感を感じます。極端ななで肩になってます。歩き方が足首だけで歩いているようです。僕と同じです。山ガール2人組は、途中から一人のペースが脱落し、僕と完全に同じペース。1人はずんずんと先へ進みます。

またこの景色か。いつまで続くんだこの道は。

本当に今日中に帰れるのか? ゴールまであとどれくらいだ? 

山頂でレンタル自転車やってくれたら良いのに。

登りの達成感を味わえたら、適当に帰れるシステムならいいのに。

誰か下まで運んでくれないかな。乗り物に乗りたいな。

乗せてくれたら2万までなら、いや、3万まで出す! なんて絶対無理だしな。

こんなに下山が辛いとは思わなかった。もう2度と登らない。俺の山登りはこれで終了。帰りたい。

 頭の中では弱音オンリー。しかし、ゆっくりでも進みます。6合目が見えてきました。登りとの合流地点。昨日通ったところです。すると不思議と元気が急に沸いてきました。

あそこまで行けば、あとは水平移動だったはず。もう少しだ。

ゆっくりでも歩けば、ちゃんとゴールに着くんだ。人生も同じだな。

立ち止まることさえなければ、必ずゴールにたどり着くんだな。

早くなくてもいい。自分の足で歩こう。よーし、がんばれ俺。

まずは向こうに見えるカーブまで。そこへ着いたらまた同じ距離をがんばろう。

そこもがんばったら、また次も同じ距離だけ頑張ればいい。

気が付いたら5合目に着いているはずだ。

 6合目には馬がいました。乗せてくれるみたいですが、料金表すら見ません。ここまで来たら自分の足で歩きたい。これから登る人たちとすれ違います。多分、出発時間は昨日の私と同じくらい。ツアーも多いようです。「こんにちはー」「こんにちはー」と声をかけてきます。20人くらいのツアーでこれをやられると、結構つらい。しかし声を出す度に力が出るのが分かり、その後は最後まで、一歩一歩踏みしめる毎に「膝!」「膝!」と、自分の肉体を応援しながら頑張りました。「こんにちはー」の数も減りました。

 6合目から5合目。ヘロヘロですが気持ちは頑張れます。先行山ガールとの距離が狭まります。しかし後追い山ガールも単独若者も同じ距離。きっと先行山ガールが、友達とゴールしようとペースを落としたんでしょう。友情にひびが入らずホッとします。赤の他人なのに。後追い山ガールは、どこからかナチュラルな木の棒を拾って杖にしてます。仙人みたいです。昨日、「帰り、天気が良いときに写真撮るか」と思っていた根っこの木を過ぎますが、立ち止まらずにそのまま進みます。凱旋パレードの感覚です。止まることはできません。

 5合目の土産物屋が見えてきました。ほぼ24時間前、期待と不安を抱きながら通った場所です。この1日の出来事が走馬灯のように思い・・・・・・めぐりません。下山をがんばった自分を自分で褒めてあげるだけ。

辛かった。痛かった。のどが渇いた。でもがんばった。もう終わりだ。良かった。もう2度と山には登らないから大丈夫だ。安全だ。平和だ。布団だ。布団で寝れるんだ。よその人と触れ合わなくていいんだ。

 5合目の広場では山ガール2人組が健闘をたたえ合っています(そういう風に見えただけかもしれない)。単独若者はここで見かけなくなりました。他にも下山した人たちが喜び合っています(そういう風に見えただけかもしれない。そもそもこれから登るのかもしれない)。前日、5合目からしばらく一緒だったツアーご一行のメンバーもいました。昨日はキャピキャピしてたのに結構やられている感じ。下山の過酷さを物語ります。

 私はまっしぐらに土産物屋の自販機に行って、スポーツドリンクを1本、飲み干しました。登山は無事終了です。 

5合目から自宅まで

 駐車場へ向かうバスは既に止まっていました。のどを潤した私は無敵。小走りでバスに向かうと、係りのおばちゃんが「走らなくていいよ」と言ってくれます。行きで往復のバスチケットを買っていたので、復路のチケットを出します。リュックサックを預け、金剛杖だけ持って車内に入ろうとすると、運転手さんが「壊れ物入ってないですね」と確認してきました。リュックの中には大事なカメラが入っています。その旨を伝えると、「申し訳ないんだけれど、車内に持ち込んで、抱えてくれるかな」。カメラを壊されたらたまらないので素直に従います。「いやー、お願いしても、『預かってくれ、壊さないでくれ』っていう人も多くてさぁ」。なんかかわいそう。

 4~50分で駐車場に着きます。運転手さんが「どこまで帰るの?」と声をかけてくれました。東京まで帰ると言うと、「ここからバスあると思うけれど、待つことになるなぁ」と教えてくれました。「車で来たんで、温泉入って帰ります」と言うと、「富士急ハイランドの温泉は新しくて広いよ」と割引券をくれました。なんか非常に愛想のいい運転手さんです。でも運転手さん、ゴメン。行くところ、決めてたんだ。

 自分の車に入り、家族に一応連絡しようと携帯を出すと、バッテリーがゼロ。ほぼ使っていないのに1日持たないなんて! 携帯は電波の悪いところ、届かないところでは、電波を探そうと余計にバッテリーを消耗するみたいです。知りませんでした。温泉に行く途中、コンビニで充電器を買おうと思いましたが・・・・・・、まぁいいか。心配しているわけでもなさそうだし。 

温泉は駐車場から車で10分ほどの泉水に行きました。理由は富士急ハイランドのふじやま温泉よりも安い。

富士山溶岩の湯泉水 

  • 住所:山梨県富士吉田市上吉田4261
  • TEL:0555-24-2438 
  • 営業時間:午前10時~午後11時(年中無休)
  • 朝風呂:午前5持~午前8時(最終入館7:30)※ 朝風呂 木曜定休日

靴擦れが温泉に染みて痛い。けれど予想通りゆっくりできました。登山客は半分程度でした。

 帰りは中央道。大月から渋滞なので談合坂で夕飯を食べて帰りました。帰りは結局渋滞で、本当に「もう2度と山登りはごめんだ」と思いながら帰りました。

翌日の筋肉痛は想定内でしたが、金剛杖を持っていた手がしびれているのは想定外でした。 

 


今回の富士登山 

富士登山の反省とこれからの対策

 「2度と登らない」と思っていましたが、結果的には1カ月後に立山に登ります。これから山登りを続けて行くために必要なことは、毎回何かを少しづつ学ぶことが必要です。というわけで今後につながる反省をします。まだ初心者らしい反省です。

 

靴はしっかり機能する登山靴じゃないとヤバい

 下駄箱の奥で寝転がっていた、学生の頃に買ったトレッキングシューズを使いました。登り始める前に靴擦れになりました。見たら踵のプレートがむき出しでした。これじゃあ靴擦れするわけだ。

リュックは登山用がいい

 家にあった嫁所有の普通のリュックサックを借りて使いました。チェストハーネスはありますが、ヒップベルトはありません。ものすごく肩の負担を感じました。

衣類はとにかく速乾性

 普段着でも登れました。しかし濡れて重くて寒くて不快でした。低体温症で死にそうになったとき、速乾性かどうかで生死の分かれ目になる気がします。

 まず下着。普通のTシャツでした。明らかに汗冷えを感じます。「登っているときは汗をかく=温かい」ではないことを知りました。ちなみに2日目から頭にタオルを巻いていましたが、「汗をかく→タオルが湿る→タオルを被った部分が冷える」の理屈で、かき氷を一気に食べたような頭痛が起こります。

 長袖シャツ。LLビーンの綿シャツでした。湿ることで重い&寒い&動きづらいの三冠達成。LLビーンは店舗にでかでかと登山写真を使用していたので、すべて登山向けなのかと思っていたのが間違い。僕はその中の街着用しか持っていなかったようです。LLビーンに登山用があるかどうかは知りません。

帽子は形が重要

 普段かぶっているハンチングを、富士山でもかぶっていました。2日目早朝、ヘッドライトの使用ができません。ヘッドライトを使用しない行程であれば、どんな形でもいいかと思います。

金剛杖にはかなり助けられた。

 特に下山中は役に立つ。でも金剛杖を他の山で使うのはおかしいと思います。吉田口頂上で写真を撮り合った山ガールの持っていたポールは有効だと思います。

カメラは収納を考える

 すぐ撮るつもりで首から下げていました。途中、重くて憎たらしくなります。写真を撮る気力もなくなります。

三脚はよく考える

 一度も使用しませんでした。登山の一番の目的を考えて持参するか、軽量タイプが良いと思います。

水分は大目に

 1リットルあれば2日間の全行程行けると思っていました。話になりません。水分足りない地獄は想像以上に辛いです。逆に下山したあと、金さえ払えばどこでもジュースが飲めることの有難みを感じます。

メッセンジャーバックはダメ

 完全に邪魔でした。必要分のお金だけ、すぐに取り出せる位置にあればいいと思いました。またiPadも登山中は不要な気がします。

携帯はフライトモード

 通常モードにしていたらバッテリーが1日でなくなりました。これではいざというとき、救助を呼ぼうと思っても呼べません。生死に関わります。バッテリーの管理は大切です。

地図を持参する

 道に迷うわけがないと思っていました。確かに道には迷いませんでした。しかし、地図がないので自分の位置を確認できません。目標までの行程の目安が把握できれば、最後の気力で頑張れます。僕は折れそうでした。

 やっぱり一度、体験してみないと分からないことばかりです。必要なものを聞いたり調べて用意すれば間違いは減ると思います。でもこの間違いも登山の思い出。みんな失敗して辛い思いすればいい。

富士登山を振り返る

 念願の富士登山。今思えばいい思い出しかありません。8合目までの暗闇と風によるスリル。ご来光、その直後の赤く地面が染まる時間。山頂での無音を聞く感覚。透明な空気を隔てて見る景色。頭の中で絶叫し続ける感覚。

 これらいい思い出は天気が良かったことが大きな要因です。もしも雨なら、本当に2度と登山はせず、「富士山は1回登れば十分。あれは見るもんだ」なんて言っていたと思います。

 しかし現実に僕はいい天気の中で登山ができました。そして見るもの感じるものすべてに衝撃を受けました。

 この衝撃は、2度目もあるのか? ほかの山にもあるのか? それを確かめたい。

 夏の富士山にはまた登るでしょう。富士宮口からプリンスロードで宝永山にも行ってみたいし、御殿場の大砂走で下山してみたい。山小屋ではなく弾丸登山にするかもしれない。

 その前に、他の山にも行ってみたい。噴火口のない山頂はどんな様子か。富士山よりも低い山で感動はあるのか。そう考えた僕は、1カ月後の9月のシルバーウィーク。立山三山を縦走していました。

 それはまた、次のお話。


富士登山の必需品

地図

山と高原地図 富士山 御坂・愛鷹山 2017 (登山地図 | マップル)

 

にほんブログ村 アウトドアブログ 登山へ

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です